NPO法人あえりあの代表理事 高橋亜由美(看護師)は、重症心身障害児(医療的ケア児)とその母親の沖縄旅行に有償ボランティアで同行してきました。
NPO法人あえりあとしては、旅行の支援を現在行っておりませんが、今後の活動の検討のためにも、高橋が体験してきたことと、4月30日に実施したzoom報告会の活動報告として、記録します。
写真付きで具体的な方法を掲載しています。
「行けるかも」「行ってみたい」「やってみたい」につながると嬉しいです。
S君
中途障害の中学生の男の子。遷延性意識障害。
身長 約150cm
体重 40kg弱
医療的ケアは、気管切開(夜間のみ人工呼吸器)、吸引、カフアシスト、吸入、胃瘻。
日常生活では状態が安定しており、特別支援学校やデイサービスに通っている。受傷後、旅行を含めて遠出はしたことがない。
「医療的ケアがあっても旅行に行ける、自分たちも行きたい、と思ってくれる人がいてくれたら嬉しい」と、SNS、WEBサイト、zoom報告会への写真の使用と情報提供にもご協力いただきました。
事前準備
飛行機
※お問い合わせ窓口に電話をして得た情報です。
万が一、予約の変更をしなければいけない場合を考えると、航空券の予約をして、支払いをする前に電話をしていただけると良いとのことでした。
今回は、JALを利用しました。
一般社団法人スペサポさんの「医ケアkidsナビ」に「G-9 暮らしに役立つ『飛行機旅行の手順書』」という記事があります。
こちらも、とても参考になりますので、ぜひご覧ください。
宿泊先
まずは、ここのお問い合わせすべし!!
那覇空港しょうがい者・こうれい者観光案内所 沖縄バリアフリーツアーセンター
大きなバギーでも利用できる客室があるホテルを教えてほしい、ミキサー食対応をしてもらえるか知りたい、介護タクシーを使いたい、障害児が◯◯できる観光地を知りたいなどなど、要望や条件をお伝えすると、情報をいただけたり交渉してくれたりします。
沖縄での移動手段
介護タクシーと福祉車両のレンタカーで料金を比較したところ、あまり差がなかったため、介護タクシーを利用することにしました。
今回お世話になったのは、「介護タクシー みぃ〜ちゃん」です。
沖縄県福祉介護タクシー事業共同組合さんでも、情報を提供していただけます。
医療機器のレンタル
ホテルとも調整して、事前に部屋に入れておいてもらえました。
医師との調整
事前打ち合わせ
いざ出発!!
新千歳空港の福祉車両で乗り降りできる場所
介護タクシーやヘルパーさんの送迎などを利用する場合は、こちらを利用すると良いです。
カウンターでの手続き
飛行機用のリクライニング車椅子
百均で売っているようなロール状の滑り止めシートが、とても役立ちました!おすすめです!!
自分のバギーのクッションや枕などで、個々に合わせた調整が必要です。
体幹ベルトが追加で必要であれば、事前に連絡しておきつつ、搭乗手続きのカウンターでも伝えたほうが良いと思います。
空港のスタッフさんに介助していただけますが、介助の仕事をしている方ではありません。
身体は大きいけれど首が座っていないこと、体幹や手足を自分では支えられないこと、「私は◯◯をするのであなたは△△をしてほしい」「服をつかむのではなく臀部と大腿の下に手をしっかり入れて、身体を持ち上げてほしい」など具体的に指示を出す必要があります。
身体的介助を任せるのは難しそうであれば、荷物に徹してもらうと判断するということが必要な場面もあるかもしれないです。
リクライニング車椅子での移動は、空港のスタッフさんにお願いしました。
段差などにも気をつけて、丁寧に移動してくださいました。
機内で座席への移乗
予約している座席の横まで進み、
機内での過ごし方
体幹ベルトで固定できる座席は限られています。
体幹ベルトで固定すると後ろの席の人がテーブルを出せなくなってしまうことや、優先搭乗ではありますがすぐに他のお客さんも乗り込んでくるのでスペースの問題もあるのかと思うのですが、真後ろが壁の座席でした。
よって、離発着時以外も、リクライニングできない座席でした。
他の子のお母さんから、家族で旅行するときは父親が真後ろの席に座るようにして、気兼ねなくリクライニングして乗っているという情報もいただきました。一緒に飛行機に乗る人数や間柄によっては可能な方法です。
気圧変化や離発着時の振動の影響か、普段よりも痰が非常に多くなりました。飛行機に乗ったことのある他の子のお母さんからは、毎回酸素飽和度が低下したり、夜間のように深く眠ってしまうこともあるとの情報もありました。
※ストレッチャーに乗っているような状態で飛行機に乗る方法も、各航空会社のホームページで紹介されていますが、条件があります。
傷病者や、座席に座ることが不可能な場合のみ適応となるそうです。
沖縄滞在
胃瘻からの注入での食事
バギーで沖縄観光
札幌から沖縄に移住した作業療法士さんが、沖縄ならではの食べ物などを教えてくれました。
美ら海水族館・オキちゃん劇場
美ら海水族館の近辺は、坂がとても多いです。
福祉車両用の駐車場から、美ら海水族館やオキちゃん劇場までも、急な下り坂が続きましたが、体力に不安がない介助者であればバギーを押しながら歩けないほどではないという印象でした。
(登りは、息切れします。笑)
パトロールカーという大型の福祉車両があり、傷病者の搬送のために使用中でなければ、電話をして移動に利用することができます。
待ち時間と時速20km/hでの走行を考えると、近距離であれば自分で移動してしまったほうがいいと判断する方もいるかもしれません。
美ら海水族館の中は、バリアフリーになっており、大きなバギーでも動けますし、エレベーターも問題なく乗れました。
ジンベイザメのいる大きな水槽の前には、床に車椅子マークがついていて優先ゾーンがありました。
東南植物楽園
東南植物楽園内は、順路の通りに全部を回ることはできませんが、多少の振動が問題なければ、バギーで楽しむことができます。
※大きな蚊がたくさんいました!虫除け対策必須!
アメリカンビレッジ
アメリカンビレッジは、店内が狭かったりカフェの入り口に段差があったり、バギーでは入れない箇所も多々ありますが、雰囲気を楽しみながら歩くことは可能です。
エレベーターは意外と広く、大きなバギーでも余裕がありました。
あいにくの雨。
バギー用のポンチョ型のカッパで濡れないようにしつつ、介助者もカッパを着て観光しました。
シェードよりも、視界をさえぎらないメリットはありますが、このカッパでは人工鼻が濡れてしまいます。
小雨が降ったり止んだりだったので、人工鼻の上にタオルハンカチをかぶせて直接濡れないようにしつつ(酸素飽和度の低下がないことを確認)、雨が止んだ時や屋根のある箇所ではタオルハンカチを外していました。
また、カッパの素材的に、沖縄の気候とも相まってとても蒸れます。
重症心身障害児には体温調節の難しい子も多いので、風通し、小型扇風機の使用、服の調節など、個々に応じた工夫も必要そうです。
高橋は、リュックごと一緒に着たかったので、ポンチョです。(ちなみに3COINSで買いました)
部屋やベランダでゆっくり
飛行機での長時間移動や観光など、普段よりもバギーに乗っている時間が長かったり、慣れない体制を強いられる場面もあるため、作業療法士さんに来てもらえてよかったです。
そして、暖かい気候の沖縄ならではのベランダでのゆったりタイムも気持ち良さそうでした。(低体温になりやすい子なので、北海道ではこんな薄着で外にいられない!)
温水プール
営業時間内であるため、他の方もいる中での利用となります。
私たちが到着する前や、プールから上がってシャワーを使い始めた頃に、他のお客さんが遊んでいましたが、奇跡的に貸し切り状態で利用することができました。
スタッフの方も、驚いていました。笑
床が濡れている場所もあるので、吸引器などの荷物を置くために、シートを多めに持っていってよかったです。
ライフジャケットは、NPO法人ToiToiさんが持ってきてくださり、浮き輪は全て持参したものです。(空気入れは、貸していただけました)
ブルーリーフ(ホテルモントレ)さんは、「障害児や医療的ケア児の利用の経験は少ないが、今後も積極的に利用していただけるように、ホテルとしても取り組んでいきたい」とおっしゃっていました。
屋内プールでは120cm以上の浮き輪の使用は制限されていますが、こちらの事情や他の利用者がいない時間であったことから特別に許可していただきました。
介助者の利用料の配慮、着替え等のためにスタッフルーム貸切、スペース確保や物品移動などの手伝い、片付けなどなど、本当に親切にしていただき、ありがとうございます。
また、NPO法人ToiToiさんの代表比嘉さんが、事前に下見や調整をしてくださり、キッズプールのすぐ近くの部屋で着替えさせていただくことができ、低体温にならずに利用することができました。
ご協力いただきまして、ありがとうございました。
もとぶ元気村
桟橋はバギーで移動し、イルカに触る場面のみ、抱っこの状態で実施しました。
こちらもNPO法人ToiToiさんのご好意で、もとぶ元気村での「ドルフィンウィッシュ」に参加させていただくことができました。
ありがとうございます。
沖縄滞在中の入浴
ホテルの浴室での入浴が難しいので、海(雨のため実施できず)やプール利用時のシャワーで身体や頭を洗いつつ、もう一回入浴できる場所がないかを探していました。
入浴サービスを実施している重症児デイサービスを一時利用させていただけないかと、検索して数箇所に連絡させていただいたところ、NPO法人ToiToiさんから「入浴に限らず、お手伝いしますよ。沖縄を楽しんでください。」とお返事をいただき、お言葉に甘えさせていただきました。
訪問入浴で使用している組み立て式の入浴セットを、ホテルに持ってきてくださって、ホテルの部屋で入浴することができました。
旅行を通して
二人の姿を見て、いろんな場面で感動
受傷後初めての旅行であり、「すぐコロナ禍になってしまって、出歩きにくくなってしまった」「今後どれくらい旅行ができるのかわからないから、せっかくなら一番行きたい沖縄に行きたい」というお母さんの思いを聞き、S君に話しかけるお母さんの笑顔を見ていると、本当に実現して良かったなといろんな場面で感じました。
S君も「札幌にいるより元気。すごく反応がいい。」とお母さんが言うほど、目やちょっとした表情の変化での意思表出が多く、体調を崩すことなく旅行を楽しむことができたようです。
こんなことしたい、ここに行きたい、を、実現できる人が増えたら嬉しいですし、医療職としてできることをしたいと改めて思わせていただきました。
医療職の視点から
高橋の個人ブログで綴っております。
ご興味のある方は、こちらをお読みください。
zoom報告会参加者の声
質問
今回は旅行全体への同行だったが、現地で看護師を頼むことはできるのか
「保険外サービス」「自費サービス」を行っている訪問看護ステーション、起業した看護師などを探すと、依頼できる先はあると思います。
飛行機が一番大変だったので、家族で飛行機の座席への移乗とポジショニング、機内での体調変化への判断と対応が可能であれば、現地で必要な時間数のみを依頼する方法でも良いと思います。
実際にかかる費用
- 母と子と看護師の旅費(航空券・宿泊費):航空券の予約時期や、宿泊するホテルによって、金額が左右されます。
- 交通費:介護タクシー(利用する時間数によります。ホームページに数時間パックの記載がある介護タクシーさんもあります。)、協力者の交通費
- 医療機器のレンタル
- 食費:各自支払うということを予め決めていいきました。(ご馳走になった日もあります。ありがとうございました。)
- 雑費:滑り止めシート、浮き輪、保温グッズなどなど
- 看護師:下記
「保険外サービス」「自費サービス」の一般的な金額は、5,000〜9,000円/時 × 拘束時間数 で計算されることが多く、6時間以上だとパック料金が設定されているところもあります。
(医療保険や介護保険など保険内サービスでは、自己負担額が一部であるためもっと安く看護師が来てくれる感覚になりますが、10割負担であることを基準に考えると妥当な金額になっています。)
1泊2日で10万円弱、2泊3日で15万円くらいになります(今回の6泊7日を考えると膨大な金額になります)。
高橋は、看護師の費用が高額すぎて旅行を諦めてしまうのは本末転倒であると考え、高橋も初めての同行であること、この経験自体が報酬の一部であることから、
①1時間単価は半額以下
②夜間・早朝の割増なし
③拘束時間ではなく稼働時間(夜間は気にせず寝てくださいとの事だったので寝ている時間をカットし、休息のための時間もカットして私も自分の仕事をするなど)で計算
④上限金額をあらかじめ決めつつ、情報発信のための素材提供などにご協力いただくことに同意していただく
⑤事前打ち合わせは無料
という方法をとりました。
※あくまでも高橋の考え方であって、他者に押し付ける気はありません。そして、一般的な金額設定は、額面だけを見ると高く感じるかもしれませんが、看護師として旅行に同行することは、自分しか医療職がいない場で判断や臨機応変な対応を求められ、その責任を負い、旅行中は時間的拘束があるということを、ご利用される方にもご理解いただきたいです。
zoom報告会の感想やメッセージ
- 学ぶことだらけの楽しい1時間でした!
- 保険内でのケアや支援ももちろん大切ではありますが、人として“ふつう”の希望を叶えるための支援の輪がもっと広がっていけばいいなと感じました。
- こんなにたくさんのことにチャレンジできるんだなぁってビックリしました。
- 札幌から沖縄まで旅行なんてすごいと思います。近場、遠出に限らず、もっとみんなが出掛けられる気持ちになれたらよいなと思います。
- ぜひ、たくさんの子やご家族がやりたい事を実現してほしいと思います。
- 貴重なチャレンジは宝のような情報ですね。ありがとうございます!
-
とても勉強になりました。医療者でもあり障害児の母でもあり、もっと自分に出来ることを考えさせられました。
- とても興味深い内容でした!私も同行したり、札幌に観光で来る方がいたらお手伝いしたいと思いました。
- 大変でも子供のために沖縄旅行に行こうと決断したお母さんすごいです!
- 見ていて元気をもらいました。行政では追いつかないことに取り組んでくれてありがとうございます。
NPO法人あえりあを応援!
NPO法人あえりあは、医療福祉分野の有資格者、そのサポートが必要な方々(障がい児者、持病 のある方、高齢者、介護者、妊娠・育児中の方、被災者、その方々が対象となっている団体・法 人等)、医療福祉分野の資格取得予定者に対し、オンライン・オフラインを問わず必要な支援を 企画・運営する事業を行い、医療福祉関連事業と地域づくりに寄与することを目的に、2021年7月に設立しました。
同年8月に、医療・福祉・介護の有資格者と、サポートが必要な人が、つながり合い助け合うプラットフォーム「さぽんて」β版をリリース。
2022年5月からは、専門職による介護予防教室や、介護が必要になる前に知ってもらいたいことを題材にしたセミナーなど、札幌市内での介護予防・介護に関する活動も開始しました。
詳しくは、活動報告ブログをご覧ください。
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