ナースのキャリア図鑑 vol.2

2025年2月2日に、経験してきた分野の異なる3名のトークライブ&交流会の看護師・看護学生向けイベントを開催しました。

ナースのキャリア図鑑 vol.2

トークライブ

MC紹介

高橋亜由美 / 看護師・保健師

大学病院ICUで5年勤務後、派遣登録して短期や単発バイト、透析クリニック、訪問看護、人工呼吸器特化の病院を経て、現在は、重症心身障害児・医療的ケア児のデイサービスで週4の常勤勤務をしつつ、2021年にNPO法人あえりあを立ち上げた。

ちむ 看護師

総合病院の急性期病棟が合わず1年で退職し、沖縄に移住して看護師をしたり、一度看護師を辞めてアパレルで働いたのちに、現在は訪問看護師をしている。
YouTube「ちむちゃんねる」

ゲスト紹介

豊岡きえ / 看護師・保健師

株式会社トキエノ代表取締役。
総合病院のNICUで働いたのち、役場や地域包括支援センターで保健師として約10年間勤務。産業保健師も兼業しつつ、起業へと至った。

原野あきほ 看護師

3人の出産・育児をしながら約10年間病院で働いたのちに、現在は、もか訪問看護ステーションで活躍中。

杉村直孝 /看護師

博士後期課程大学院生(専門は看護技術教育、労働管理・安全管理、看護情報学)
夜勤専従看護師としてHCUで勤務している。
NoMaps北大 コアメンバー、北大サウナプロジェクト発足 、能 観世流華友会北海道支部 、地元八戸市では田中屋ビルオーナー代理、八戸杉村養蜂場 販売担当 、札幌高等養護学校での芸術の授業や北海道芸術高校で探究の授業をするなど、看護の領域に限らず活動中。

豊岡萌絵さん

現在は、どんなお仕事をしていますか?

豊岡:行なっている事業は4つあります。

1つ目は、中小企業の健康経営支援(ビズカル)です。

「ビズカル」は、「ビジネス」と「メディカル」を掛け合わせた造語で、医療の知識や経験を活かして、働く人と会社を元気にしたいというコンセプトがあります。

50人未満の会社には、従業員の健康管理に関する法律がなく、「健康診断をちゃんと受けさせよう」ぐらいなんですよね。
北海道は50人未満の企業が多く、働く人の健康を守る仕組みが必要だと思い、中小企業の会社の保健室のようなサービスを行っています。

従業員と面談をして、会社の課題や好きなところを分析し、良いところは伸ばし、課題はみんなで考え、理学療法士、医師、管理栄養士の仲間とチームでサポートをします。

2つ目は、研修や講演の活動です。

私自身が仕事を頑張り過ぎてしまい、メンタル不調で仕事に行けなくなってしまった経験があり、企業や地域で心の健康をテーマにお話しさせていただくことが多いです。

3つ目は、医療職を対象としたオンライン起業塾です。

自分が起業した時に、初期につまずいてしまったことから、起業したい保健師や医療職の支援をしています。

4つ目は、NPO法人あえりあと共同主催で、「ココカラ保健室」を2ヶ月に1回、南区の真駒内のカフェをお借りして、地域の方と交流の場づくりもしています。

やりたいことにチャレンジして、失敗も多いですが、トライアンドエラーをしながら、お仕事しています。

なぜ保健師に?

豊岡:大学卒業時に看護師と保健師の資格を取得し、総合病院のNICUで看護師をしていました。

看護師もすごく楽しかったのですが、お父さんお母さんが赤ちゃんを連れて退院する時、幸せいっぱいというよりも、すごく不安そうな顔で帰る姿も目にしていました。

入院中しか関われないことがもどかしくなり、「日常生活を支援する仕事をしたいな、これって保健師か?」と思っていた時に、地元で保健師の求人があり、2年しか看護師をしてなかったので迷いましたが、なかなかないチャンスかなと思って、保健師に転職をしました。

役場の保健師として、妊娠・出産・子育てと一連の様子をみることができ、お父さんへの保健指導、お爺ちゃん・お婆ちゃんの介護予防教室など、町をまるっと、家族みんなをみるのが保健師の醍醐味だなと、少しずつ仕事面白くなりました。

結婚のタイミングで札幌に引っ越し、子育てをして主婦の期間もありましたが、働きたい意欲が高まってきて、保健師に復帰しました。

札幌市内の地域包括支援センターで約10年間お仕事をさせてもらったのちに、起業しつつ、週に3日は産業保健師としても働き、二足のわらじを履きながら今に至っています。

流れに身をまかせてやってきました。

高橋:こういう話を聞くと、「すごい人だな」と感じると思いますが、もやもや悩む時期もありますよね。

豊岡:起業したいと思うようになってから、実際に起業するまで、10年くらいかかりました。

迷ったときの自分の考え方

豊岡:どちらを選んだら楽しいか、幸せになれるかを考えるので、直感型ですね。

計画的にできる人は凄いなって思う反面、自分が計画立てようするとすごく時間がかかってしまうので、自分はこれでいいのかなと思っています。

ちむ:起業まで10年間の迷いがあったとのことですが、直感型のきえさんが迷っていた理由は?

豊岡:どう始めていいか、わからなかったんですよね。看護師だったら病院、保健師だったら行政に勤めるものだと思っていました。

起業してる医療職がいるのも知らなかったし、ネットでは見かけるけれど、自分とは違う凄い人達だと思ってしまい、迷うにも至らなかったのかもしれないです。

コロナ禍で、オンラインでいろいろな人とお話しする機会が増えて、起業してる人、フリーランスで働いてる人、2個以上の仕事をしてパラレルキャリアで働いてる人など、こんなにたくさんいるんだ!と知りました。

自分の固定観念が崩れて、「じゃあやってみようかな」と思えました。

あゆみさん(高橋)と出会えたのもその頃でした。

自分のやりたいことを(当時流行していた音声SNSであるclubhouseで)毎日のように話している人がいるんだ!と惹かれたんだと思います。

人との繋がり、応援者を増やすことの大切さ

高橋:確かに毎日喋ってましたね。応援される人になるっていうのは大事だと思うんですよね。

豊岡:本当に、応援者を増やすことが大事ですね。人との繋がりがないと仕事は生まれないので、人といい関係を作ることが、まず最初にできる営業活動なんだろうなと思います。

保健師の仕事の楽しさ

豊岡:保健師は、赤ちゃんから高齢者まで、あらゆるライフステージの人の健康に関わります。

健康な人がもっと健康になるにはどうしたらいいか、病院にかかりながらも元気で自分らしく暮らすにはどうしたらいいか、介護が必要になってもそれ以上悪化せず自分のやりたいことするにはどうしたらいいか、など、様々な健康レベルの方にお会いでき、一緒に考えられるのは、すごく面白いなって感じています。

そして、今までの経験を全部凝縮して活かすことができます。

働く人のとしての健康だけではなく、妊娠したら妊婦さんになり、赤ちゃん産んだら産後のお母さん、お父さんの育休、親の介護が気になる世代にもなるため、今までの全キャリアを投入できるのはすごく面白いし、やりがいがあります。

看護師も保健師も、法律で決められた範疇での仕事ではありますが、いかに自分で仕事を作り出すかという面白さもあります。

これからのビジョン

豊岡:若い方が道外に出ていくケースが多いようですが、「北海道で働くのが楽しい」「北海道で働くのが格好いい」と思えるような地域作りや職場作りを、保健師の視点からやりたいなと思っています。北海道でやることに意味があるかなと思っています。

原野あきほさん

看護師になった理由・訪問看護を選んだ理由

原野:友人が精神的に落ち込んでしまったことがあり、看護師として寄り添いたいなと思ったことがきっかけです。

すごく忙しい病棟ばかり経験してきたなかで、患者さんともっと話したり、患者さんにもっと尽くしたいという思いがあり、ちょっと嫌だった訪問看護に行ってみようかなと思うようになりました。思っていたより楽しいです。

事務作業が苦手ですが、仲間に支えてもらいながら頑張れます。

高橋:ちむちゃんは、なぜ訪問看護にいきついたんですか?

ちむ:学生時代の実習で在宅が一番楽しかった記憶がありました。病院を経験してないと採用してもらえないだろうと思い、まずは経験を積もうと病院に勤めたのですが、合わなさすぎて転職を繰り返していた時に、たまたま訪問看護の管理者と知り合い、3年目の終わりぐらいから訪問看護を始めました。

高橋:新卒で就職先を探す時は、その道をずっと歩むものだと思いがちですが、みんな結構転職しますよね。

私も実習では「小児では絶対働かない」と思っていましたが、今は在宅小児の分野にいますし、変わっていいものだと思うんですよね。

人それぞれタイミングがあったり、判断する材料が変わっていったりするものです。

新人時代に大変だったこと

原野:先輩からの指導が、すごくつらくて本当にやめたいと思っていましたが、今になって思うと、礼儀や患者さんに対する声掛けなど、あの時に学べて良かったなと思います。

3児のママナース!?

原野:小1、5歳、1歳の母です。大変ななか頑張れるのは、やりがいのある仕事だからですかね。

子供達がいるから働かなければということもありますが、一番はやっぱり仕事が楽しいからですかね。

訪問看護への転職の経緯

原野:今まで病院で働いてたことには後悔はありません。

ただ、3人目の出産のときに、産後1ヶ月で復帰して、キツかったのもありますが、何か違うなと思いました。

たまたま、もか訪問看護ステーションのホームページ見て、お話聞きたいという気持ちですぐ連絡しました。

もか管理者:3分で採用が決まったんです。最速でした(笑)とにかく明るく、あたたかい空気が凄い出るんですよね。人柄がそのまま溢れている方なので、すぐに決まりました。利用者さんとの関わりも、裏表なく、このままです。人間性が良いなと思いました。

高橋:医療職は、知識や技術など実務的な仕事やキャリアばかりを気にしがちですが、人間性も大事なんだなと思いますよね。

今後どんな看護師になりたいか

原野:もっとスキルをあげたいです。子供がいるし思うようにはいかないこともありますが、指導する人になりたいなと思います。新しい看護師が来た時に助けたいです。

杉村直孝さん

現在は、どんなことをしていますか?

杉村:看護師として働きつつ、大学院で看護教育などを研究しています。春からは大学教員になる予定です。

NoMapsというイベントに運営メンバーとして参加したり、大学にサウナを作ろうっていうプロジェクトを立ち上げたりもしています。

北海道のアイドルを応援しようという活動や、探求の授業でキャリア教育の授業をしたり、趣味でを習っていた経緯があり、養護高等学校で能の授業もしました。

趣味がたくさんあり、自分の看護の世界に色んなヒントがもらえると思っています。

地元(青森)のテナントビルのオーナーとして、まちづくりのため活用してもらっていたり、父が趣味ではちみつを作っているので販売担当もしています。

何でもやり過ぎていて…いろいろしています(笑)

なぜ大学院に?

杉村:母も看護師でして、専門学校の教員、市役所や保育園などで働いているのを見てきたので、いろいろなところで働ける強い資格なんだなという認識がありました。

僕は、4年くらい大学病院で働き、30歳になる前にいろんな経験を積みたい、キャリアアップしたいという思いが大きくなってきました。

その時の自分の状況に、閉塞感を感じて逃避したいという気持ちもあり、青年海外協力隊に興味を持ちつつ、実習指導や、研究の調査員もしていました。

教育に携わることは元々興味がありましたが、学生と関わっているうちに「もしかしたら自分に適性があって、頑張ったら何とかなるかもしれない」と感じるようになりました。

青年海外協力隊の試験に落ちて、落ち込んでいる時に、同期と話をしたらすごく慰められて、ハッとしたんですよね。

僕は自分の夢だけにわがままに動いていたのですが、「周りの人が自分のことを気にかけてくれるのは、幸せなことだな」「周りの人のために何かをすることが、生きる意味なのかな」と。

自分の人生の10年ぐらいの時間を使ってでも、看護業界にインパクトを与えられるように修行の期間にしようって思って進学を決めました。

高橋:「こういう人もいていいんだ」「それもありなんだ」と思われるタイプだと思うんですよね。「自分もチャレンジしてみようかな」と色んな人の勇気にもなったり、先を走ってくれてる人みたいな感じがして、今回ゲストにお声がけさせていただきました。

教育や研究のおもしろさ

杉村:原点は、循環器・呼吸器の外科で働いていた時の看護です。

術後に、患者さんがリハビリして退院を目指す時に、リハビリ意欲のキープやモチベーションの向上が必要であり、その人の感性で回復を感じるためには、どういう言葉をかけたらいいんだろうかと考えることは、教育や研究にもつながっていると思っています。

看護は、いろんなアプローチをしている仕事だからこそ、看護師って凄いんだぞともっとアピールしたくて、こんな生き方をしてる部分もありますね。

高橋:看護師の仕事で得てきたものを、看護師の仕事としてだけ活かそうとする人がすごく多いなと感じます。そこで得たものは、一個人としていろんな場面に活かせるだろうし、患者さんの看護計画を立てるのと同じように、自分の計画も立てられるはずなのですが、その視点を持っていなかったりしますよね。

杉村:看護師って、長期的な計画を立てるのはもしかしたら不得意かもしれないですね。その場その場で考えるから。

場当たり的に毎回考えなければいけないことを、もう少し省エネルギーに思考できる仕組みを考えられると、もっと大事なことに力を注げるんじゃないかと思うので、研究で解決していきたいです。

高橋:その視点を多くの看護師が持てるようになると、看護業界が変わるでしょうね。世代間の考え方のギャップやIT化なども含めて、変化の最中にいるのかなと思いますね。

ジェンダーギャップ

高橋:スタートアップや女性起業家のイベントに行くと、女性が不当な扱いを受けるという視点でのジェンダー関連の話題も多いのですが、看護業界は男性がマイノリティーになっていることを実感します。

登壇イベントを企画する人達は、男性だらけにならないように女性比率を考えるようですが、看護師のイベントでは、逆に、女性だらけにならないように考えています。

病棟でも、男性がマイノリティーですよね。

杉村:男性看護師はやっぱりいた方がいいんだろうなと思うことが多々あります。男性がいると風通しがいいと言われます。

無頓着なのもありますが、女性同士ならではの会話にあんまりタッチしてないので気付かないのかもしれませんが、おそらく色々あるんでしょうね。

婦人科や産科だと、また考え方が違う部分もありますよね。

大学生の頃に、リプロダクティブヘルスという母子保健に関する授業を選択した際に、「なぜ男性の助産師はいないんだろう」と疑問に思っていたんです。

世界の事例を見ると、いなくはない、でもやっぱり同じ女性が行なう方が良いということは当然の観点ではあります。しかし、釈然としませんでした。

実習でも、男子学生として、女性の患者さんに関わる難しさにもやもやしていていました。

患者さんのニーズの問題と、働く人としての職業選択の自由の問題が、ごちゃごちゃになってるから、もやもやしてるのかなということに気付いたんです。

男性の助産師はいてもいいし、お産に関わりたい、学びたいと思う男性が存在してもいいんだけれども、現実問題として、ニーズがあるか、実習できる環境があるか、一緒に働きたいと思えるか、という視点で考えると、難しいなと思います。

好きな人と一緒になって子供を作って一緒に育っていく過程で、男性と女性という、自分達の性別をある意味活かした保健に関わる職業や役割は、男性も担っていかなければいけないとも思います。

お母さんと子どもの健康保健を維持することは大事ですが、男性もちゃんと関わっていかなければいけないと思っています。

看護業界をこうしていきたい!

杉村:僕自身の目先の目標は、研究者や教育者として実績を積むことですが、自分たちに優しい社会を作らないと、その先自分達が看護や医療を提供する時にいいものができないということを、ちゃんと文化として根付かせたいなと思います。

「やって慣れろ」のような感覚的・経験的なところを、研究者として言語化、可視化する。いろんなことにちゃんと基準ができたら、看護業界がどんどん良くなっていくかなと思っています。

交流会

スイーツとドリンクをいただきながらの交流タイム。

参加者アンケート

トークライブ

  • 色々な看護職の働き方があって良いということを改めて感じました。
  • 看護師の働く場所は病院だけじゃないこと、看護師資格の生かし方がたくさんあることを知れて、視野が広がりました。学生だった頃はまずは急性期で経験を積まなくてはと他の選択肢を無視していました。看護師には色々な働き方があること、どれを選んでもいいことをいつか学生に教えてあげることができたらいいなと思いました。
  • 根っこが看護職としての貢献や誰かの役に立ちたいという想いであれば、関係なさそうな分野も看護に繋げられると思うし、保健指導や訪問看護などthe看護や研究やっていっても良いし、何回転職しようがやりたい事をやってみるのが大事だと思いました。
  • 医療職の活躍の場や、医療・福祉の知識や技術を活かす様々な方法を聞かせていただきました。今までは看護師の仕事(病院、施設、在宅、保育園など)の中で自分のやりたいことを選択していましたが、皆さんのお話を聞いて、枠に捉われず自分のやりたいことや目指すものに看護師や保健師の経験や資格を活かしていく、というスタイルが素敵だなと思いました。
  • みなさんが楽しく活動されていることが伝わり、元気をもらいました。

交流会

  • 自分がやりたいことに前進されている方とお話しできて、私も少しずつ前進したいと思いました。
  • 色々な経験をしてきた方々とお話できて、共感できたり気づけたことが沢山ありました。
  • 皆さん、つらい時期を経て自分と向き合い、心から楽しいと思える仕事を今していると聞いて元気をもらえました。悩んだ経験もこれからに繋がると思うと将来が楽しみになりました。
  • 同じ医療・福祉職の皆さんですが、活躍の場が違う方たちのお話はとても興味深かったです。どの方も向上心があって、地域全体を良くしていきたいという思いを感じました。私も同じ志をもっているのでとても嬉しかったです。
  • 「こうだったらいいのにな」と思うだけではなく、「自分に何ができるか」「何をやりたいか」を考えるいい機会となりました。

Special Thanks

会場として使わせていただいたお洒落なカフェは、森香珈琲さん。
もか訪問看護ステーションを運営されている株式会社モカ様が経営しているカフェです。
とても雰囲気が良く、落ち着くカフェですので、ぜひ、皆様も足を運んでみてください♪
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